書籍作りについて

書籍の企画書とは?作り方や必須事項を解説

sarinochuman

出版社に所属する「編集者」は書籍を企画し、必要な制作メンバーを集めて制作、全国の書店で販売を行います。

編集者は

  • 社内で企画を通し会社からの承認を得るため
  • 制作メンバー間の意思疎通をスムーズにするため
  • 制作期間中に企画がブレて頓挫するのを防ぐため

に、まず企画書を制作します。

ここで指す制作メンバーとは主に

  • 編集者
  • 著者
  • デザイナー
  • 印刷会社
  • 取次会社

が挙げられます。
書籍や会社の規模によって、営業担当やライター、校閲者、イラストレーター、コピーライター、書店員など共有先が広がる場合もあります。

この記事ではその企画書の作り方や必須事項を解説します。

【見本】逆旅出版の出版企画書

まず最初に弊社「逆旅出版」の出版企画書を公開します。
よりわかりやすいものを……ということで、企画段階からの変更が比較的少なかった、「埋まらないよ、そんな男じゃ。」という恋愛エッセイの企画書です。

タップで拡大表示

見本としての公開にあたり、競合他社の紹介を著者の過去作、本文イメージを自社書籍の本文画像でまかなっています。
実際はベンチマークにする書籍や、イメージを元に作ったAI画像、イメージカラーを並べるなど、これから加わってもらうデザイナーやイラストレーターの役に立つビジュアルで作ります。

出版企画書の基本要素

まず、企画書に盛り込むべき基本要素は以下の通り。
重要度順に解説します。

①仮タイトル

まずはパッと見て企画内容がわかるような仮タイトルをつけましょう。

例えば弊社から刊行している以下書籍の企画段階の仮タイトルは

参考資料

「埋まらないよ、そんな男じゃ。」(yuzuka 著)
→幸せは別れることから始まる!
 終わらせ方をテーマにした新しい恋愛エッセイ

「No.2じゃダメですか?支える個性の活かし方」(佐藤彰悟 著)
→参謀力・何者かにならない「越境するNo.2」の働き方

「君と出会って僕は父になる」(矢野拓実 著)
→父親目線での育児フォトエッセイ

というものでした。
この状態で内容を詰めていき、市場調査の上、ジャンルの人気や動向に寄せて最終的に書籍タイトル(及び副題)を決めます。

なので、仮タイトルは内容が伝わる程度のものでも大丈夫です。

ただ、この時点で既に

  • 書籍の内容や特徴が一言で伝わる
  • 読者の興味や関心を引き付けられる
  • 独自性がある

といった状態だと目に留まりやすいですし、社内承認や著者の承諾も得やすいでしょう。また、制作メンバーの意欲も高まるので、可能な限り考えましょう。

②ターゲット読者

誰に向けた本なのかも明確にしておきましょう。

よくある「20代 女性 OL……」といったペルソナ設定もいいですが、実際に売っていくことを考えると、どの書店のどの本棚にいる人という考え方がおすすめです。

例えば「パリをテーマにした本を作る!もちろんターゲットはパリが好きな人」という企画であっても、

  • とある国際空港の書店の、ガイドブックコーナーにあるパリの本
  • お洒落なマダムたちが多い総合施設の、エッセイコーナーのパリの本
  • サブカルチャー好きが集う街の、写真集コーナーにあるパリの本

というように、いろいろな解釈ができ、それぞれ内容もゴールも市場規模も異なります。

関わる人数も多く、企画から刊行に短くても半年はかかる書籍背作。
ここが曖昧だと、ほぼ高確率で頓挫します。

逆に言うと、どの書店どの本棚で売るかが明確になっていれば、ターゲットがかなり鮮明にしぼれますし、企画にあった制作メンバーが選べ、スムーズに完成します。

また、作ったものの置いてもらえる場所がなく売れないという大惨事を回避できるので、おすすめです。

③目次案

目次案も、できる限り企画段階で作っておきましょう。

企画書を元に著者と内容を詰めることにはなりますが、そうだとしてもベースがあるのとないのでは話の進み方が違います。

例えば恋愛エッセイ「埋まらないよ、そんな男じゃ。」(yuzuka 著)の企画では著者に打診する前に以下のような叩き台を出版社側で作っていました。

「終わらせる」という主題にそって、

  • 1~5章立てであること
  • ざっくり捨てた方が幸せになりそうなもの
  • 著者が過去書いていたコラムを参考に、今もう一度書いてほしいリクエストなど

は著者への打診前に整理していましたのが見れますね。企画書にはスペースがあれば見出しも含め全てを箇条書きで、スペースがなければ章一覧と見出しの一部を抜粋して載せます。

これを元に著者と相談し、第2段階がこちら。

テーマはずれていませんが、著者らしい表現に変わっています。

これぐらい変わるからこそ、とにかく企画段階で目次案をつくること。
しかし、やはり大筋は変わらないので、しっかり考えること。
このどちらもが重要です。

余談ですが、第二段階ぐらいまで構成が著者とできたら初稿を書き進めます。

初稿が終わった後の構成でブラッシュアップし、第3段階がこちら。

最後にビジュアルなど全てを決め、刊行した最終段階は以下の通りです。

はじめに

chapter1.いい加減、馬鹿なフリしてモテるの、辞めにしない?
謙虚さでモてる意味のなさ
幸せになりたきゃ、ヤドカリ精神を捨てろ
片思いは、放っておくと死にます
どうしようもない男を捨てられない あなたもどうしようもない

COLUMN.結局記憶に残るのは、「大恋愛」よりも「良い恋愛」だ

chapter2.30代、もう荷物はいっぱい。前に進みたいのなら、何かを選ぶのではなく、何かを捨てよ
賞味期限の切れた同棲生活にピリオドを
最大の難関、セックスレス問題
セックスで自尊心を満たすと破滅します
結婚は諦められる相手とすること王子様は絶滅しました

chapter3.自分をすり減らすその「愛想笑い」、本当に必要?
「若さ」への未練を捨てる
その友達、手放すべきかもよ
愛のない親は存在するし、そんな親は捨てても良い

chapter4.隣の芝生は青いし、友達のインスタグラムのイイねはやたらと多いし、そもそもうちには芝生がない
悲しきかな。この世の中、結局「わがままな人」が得をします
安心して。あなたが羨んでる人の幸せ、全部偽物です
過去を見ない。それから、未来も見過ぎない

COLUMN.大人になるということ

chapter5.「めでたしめでたし」のそのあとでプライド根こそぎ引っこ抜き、祝「簡単には捨てられない人生」の幕開け
「子どもは絶対作らない」を覆した理由
最大のタブー。妊娠してから失ったもの
女を捨てる悲しさと向き合う

COLUMN.死にたいあなたへ伝えたいこと

おわりに

変わっている部分も、変わっていない部分もありますね。

大きな変更部分はそうした方がより良くなると判断した部分。それは、元があったからこそブラッシュアップできた結果だと思います。

やはり刊行までの道しるべとして目次案は大切。著者に丸投げなどはせずに、出版社内で枠組みを作り、共にブラッシュアップしていきましょう。

どうしても難しければ、企画段階では3~5個ほど確実に入れたいトピックを並べるだけでも、内容のイメージがつきます。

④競合書籍の概要

どんな企画か説明するのと同じくらい、どんな競合書籍があるのかも大切な情報です。

最低限、同ジャンルのベストセラーの書影は企画書に並べるようにしましょう。
本文のデザインも見つけられるとより良くなります。

その上で、競合の後に続きより良い1冊にしていくのか、違いをだして差別化していくのかを記載しましょう。

⑤仕様予定

  1. 書籍のサイズ
    四六判、新書、文庫、A4横版など
  2. ページ数
    ページ数でおおよその背表紙の太さが決まります
  3. 値段
  4. 何色刷りか
    1色(モノクロ)、2色(黒+1色)、4色(フルカラー)など

上記の4点は仕様の違いが著しく発生するので、確実に初期に検討・企画書に入れましょう。

その他、以下のような特別な希望や想定も、あれば記載するとより良いです。

  • 付き物の有無
    カバー、帯、栞紐(スピン)、ケースなどの有無など
  • その他特殊加工の有無
    箔押し、厚盛UV、ラメ、袋とじなど
  • 挿絵や漫画、写真ページの有無

その他、あるとより良いもの

その他、あるとより良いものをご紹介します。

あらすじ例

あらすじを載せておくとイメージが掴みやすくなります。
どうしても目次が決まらない場合などに活用するのもおすすめです。

例えば、逆旅出版が2025年3月上旬に刊行する「居場所をつくる(著:家入一真・片倉廉)」という書籍はまだ世に出せる目次ができあがっていませんが、以下のあらすじを企画書に記載。
先行受注や出版イベントの計画に繋げています。

居場所をつくる(著:家入一真・片倉廉)あらすじ

孤独な筆者らが始めたコミュニティ「リバ邸」は10年間の運営で全国100軒以上、過去1万人が訪れたシェアハウスとなった。失敗とトラブルだらけの運営から、明日から始められる居場所の作り方を学ぼう。

リアルな運営経験から語られる、居場所づくりやコミュニティ運営の必読書。

また、逆旅出版は絵本もだしています。
絵本には目次が存在しないので、以下のあらすじを公開しています。

ぼくだってとくべつ(文:ヒトデ 絵;ももろ)あらすじ

ちょっと特別な弟が大好きな しろくま君 。毎日とてもいい子に過ごしていました。
ある日、聞き上手な猫と出会い、自分の気持ちに向き合うことと、気持ちを打ち明けて世の中とつながる素敵さを学びます。

ヤングケアラーになりがちな優しい子ども達へ、自己肯定感を育み、寄り添うストーリー

物語の中で、主人公は弟だけでなく自分も特別な存在であり、ひとりぼっちじゃなかったと気付きます。
複雑な状況から自分の優先順位を下げがちな優しい子の心の機微を、ほっこりと心温まるイラストと共に描いた、成長ストーリーです。

物語の主人公は障がいのある兄弟姉妹をもつ“きょうだい児”

物語の主人公は障がいのある兄弟姉妹をもつ“きょうだい児”。家族の一人として子どもながらに障がいや病気と向き合い、親以上に時間を過ごす関係でありながら、ケアの必要性が認知されていない存在です。
今作はそんな“きょうだい児”を主軸にした物語。そのため、あえて作中に特定の病気や障がいの名前を一切登場させずに、主人公が成長する心温まる内容にしました。

目次にするかあらすじにするかは、臨機応変に決めましょう。

企画意図と書籍の特徴

なぜこの本を出版するのか、他書にはない魅力は何かを説明するのもいいでしょう。

販売戦略

どのように販売し、読者に届けるのかを考えます。
逆旅出版の場合は企画内容と共に、クラウドファンディングを使った先行受注などを行ったり、著者イベントを企画したりしています。

著者プロフィール

特定の著者に打診したい企画の場合は、なぜその著者にしたいのかも記載しておくと引き受けていただきやすくなります。

企画書作成の具体的なプロセス

基本的には上記の内容を調べ、書類にまとめていきます。
もし困った場合は、以下の順番で進めるのがおすすめです。

  1. 既存類似書籍の検索
  2. 読者ニーズの把握
  3. コンセプトとユニークセールスポイント(USP)の明確化
  4. 仮タイトル及び目次の作成
  5. 著者を始めとした制作メンバーの捜索
  6. 販売戦略の立案

既存類似書籍の検索や読者ニーズの把握は、やはりリアル書店で「売れ筋やランキングとしてピックアップされているもの」や「平積みされている書籍」を見るのが最も参考になります。

企画書に活かすつもりで見てみると、「よく使われる色味」や「使われがちなフォント」、「人気の言い回し」などの共通点が見つかります。

書店によってはピックアップした書店員のコメントを「ビジネスマンに人気」などヒントになる情報をポップに記載して並べてくれている書店も多くあるので参考にしましょう。

また、大きい書店へ行くとジャンル毎にエリアが分かれていて、それぞれのジャンルの書籍を本当に買っている読者を直接見て企画に活かすことができます。「若い人の方がこのジャンルに興味があるんだ」とか「OLに人気なんだ」とか意外な発見があるかもしれません。

補足として、Amazonや楽天BOOKSといったオンラインショップも参考のひとつにはなりますが、インターネット限定販売であったり、電子書籍での流行、セールやポイントサービスなど特殊な条件で売上が伸びた可能性も考慮しなくてはいけません。

どんな状況でも売れている(つまり需要がある)以上いい書籍ではあるでしょうが、企画段階では最も多くの本が並び、目の肥えた書店員が厳選するリアル書店で求められる1冊を目指した帆が、どこで販売しても通用するほどのいい書籍が作れると逆旅出版では考えています。

出版企画書で最も大切なこと

企画書はわかりやすさが最も重要です。

特に逆旅出版では以下の要素を大切にしています。

  1. 簡潔な文章を心がける
  2. ビジュアル要素を活用し、理解を助ける
  3. 数字を盛り込み、具体化させる

良くも悪くも文章は「自分の解釈」が入ってしまいます。
また、本作りに関わる人=文章を読むのが好きとは限りません。絵本が好きな人や、写真集が好きな人もいますし、デザインや営業面で加わるメンバーもいるためです。

そのため、できる限り文章は簡潔に、ビジュアル要素を入れて、制作メンバーが目標とするゴールに差が生まれすぎないようにしましょう。
また数字も効果的です。ターゲットの年齢や書籍の単価、サイズ、ページ数(つまり背表紙の厚さ)、著者イベントの目標部数など、数字は全員が共通して理解できるポイントです。

出版企画書の作成は出版活動の第一歩

出版企画書の作成は出版活動の第一歩です。
基本要素を踏まえ、制作メンバーの道しるべとなる企画書を作りましょう。

SNS上でのコメントをお待ちしています。
ブログ更新の励みになります!
ABOUT
逆旅出版
逆旅出版
Gekiryo publishing
人生を旅する皆様の休憩場所や分岐点になれる本を目指して。唯一無二の出会いをお届けできる書籍を制作・刊行しています。
記事URLをコピーしました