電子書籍化のメリット ~印税や紙の書籍との売上割合、読書バリアフリー法について~
「旅人にとっての宿(逆旅)のような、人生の休憩場所や分岐点をつくる」を理念として、制作・出版業を行う逆旅出版です。
近年、電子書籍市場が急速に成長しています。
もはや紙の書籍と電子書籍は全くの別物と言ってもいいほどで、出版社にとっては無視できない魅力的な市場と言えます。
この記事では、電子書籍の重要性や、出版社としての取り組みについて解説します。
電子書籍を出すメリットとデメリット
まずは電子書籍を出すメリットとデメリットをまとめておきます。
電子書籍を出すメリット
電子書籍を出版するメリットは、何と言っても読者への到達範囲の広さです。
紙の書籍は、書店に並ぶスペースや、在庫の保管場所などの物理的な制約がありますが、電子書籍はそうした制約を受けません。
世界中のどこにいる読者でも、インターネット環境さえあれば瞬時に書籍を購入し、読むことができるのです。
また、電子書籍は紙の書籍に比べて製作コストが抑えられるというメリットもあります。
印刷や製本、在庫管理などのコストが不要になるため、比較的低価格で提供できる可能性があります。
電子書籍を出すデメリット
電子書籍を出すデメリットはさほどないように感じますが、しいていえば紙の書籍とは別の違法コピーに関する対応を考えなければならない点が課題です。
また、後述しますが「電子書籍」とひと口に言ってもプラットフォームがたくさんあります。
自分自身で作成する場合や出版社の運営者は、
- どのプラットフォームに対応するのか
- それぞれに対応したデータはどう作るのか
を考えなければいけません。
また、紙の書籍を電子書籍化する分にはメリットの方が大きいのですが、電子書籍だけを作るのは逆旅出版目線では「もったいない」と考えています。
紙の書籍と電子書籍の売上割合
電子書籍だけを作り、紙の書籍で刊行しないのが「もったいない」と感じる理由は、紙の書籍と電子書籍の両方をだすことで相乗効果が見込めるためです。
現在、日本の書籍市場全体に占める電子書籍の売上割合は、まだ2割程度。弊社が出している書籍でも、周りの出版社とお話しても変わりません。
しかし、紙の書籍が売れている本は電子書籍でもランキング入りしますし、電子書籍がセールなどで注目されると紙の書籍の売上も増加します。
電子書籍が始まったころは
- 紙の書籍が売れなくなるのではないか
- どちらか片方だけになってしまうのではないか
とも言われていましたが、実際は魅力的な内容だと思ってもらえさえすれば、紙の書籍がお好きな方は紙の書籍を選び、タブレット端末に馴染みのある方は電子書籍を選ぶだけのこと。
むしろユーザーにとって使い勝手のいい選択肢が生まれただけだと、逆旅出版では考えています。
そして、書籍に限らずユーザーにとっての利便性は選んでいただく決め手になるとも思っています。
電子書籍の印税は実売部数で決まる
余談ですが、電子書籍の印税は、紙の書籍とは異なる仕組みになっています。
紙の書籍では、刷部数(印刷部数)に応じて印税が発生することが一般的です。つまり、書籍が印刷された時点で、著者に印税が支払われるのです。
一方、電子書籍の場合は、刷部数という概念がありません。
代わりに、実際に読者が購入した部数(つまり実売部数)に応じて印税が発生する契約が主流です。電子書籍が1冊売れるごとに、著者に印税が支払われる仕組みになっているのです。
電子書籍はプラットフォーム毎に違う
前述しましたが、電子書籍には様々なプラットフォームがあります。
- Kindle(Amazon)
- 楽天Kobo(コボ)
- eBookJapan(イーブックジャパン)
- BookLive(ブックライブ)
- U-NEXT(ユーネクスト)
- コミックシーモア
- まんが王国
- DMM電子書籍
これらのプラットフォームはそれぞれ独自のフォーマットを採用しているケースが多く、個人の方が一つ一つにあわせてデータを制作するのは現実的ではありません。
出版社としては、できるだけ多くのプラットフォームに対応できるよう、委託会社を選んだり各プラットフォームと個別契約を結んだりしています。
出版社によって異なる電子書籍へのスタンス
ただし、電子書籍に対する考え方は、出版社によってそれぞれ異なります。
紙の書籍を重視する出版社もあれば、電子書籍を積極的に推進する出版社もあります。 また、電子書籍の価格設定や、紙の書籍とのリリースタイミングなど、様々な戦略があります。
出版社によって電子書籍に対するスタンスはそれぞれ異なるため、考えを聞いてみると興味深い話が聞けるかもしれません。
「読書バリアフリー法」と電子書籍
出版社の思想はそれぞれありますが、日本全体での流れとしては推進されつつあると考えられます。
それは2019年6月に成立した「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」、通称「読書バリアフリー法」からも見てとれます。
この法律は、視覚障害や肢体不自由など、様々な理由で読書が困難な人たちの読書環境を整備することを目的としています。
電子書籍は、この「読書バリアフリー法」の観点からも注目されているのです。
電子書籍であれば、文字の拡大や音声読み上げなど、アクセシビリティ機能を活用することで、より多くの人が読書を楽しめるようになります。
また、「読書バリアフリー法」では、出版社に対して、アクセシビリティに配慮した電子書籍の提供を求めています。 具体的には、テキストデータの提供や、音声読み上げに適したデータ作りなどが求められています。
参考:誰もが読書をできる社会を目指して~読書のカタチを選べる「読書バリアフリー法」│文部科学省
逆旅出版の電子書籍への取り組み
私たち逆旅出版も前述の「読書バリアフリー法」の趣旨に賛同し、アクセシビリティに配慮した電子書籍の制作に取り組んでいます。
また、逆旅出版は30年以上前から電子書籍のパイオニアとして活躍する企業と共に、電子書籍を制作しています。
紙の書籍と電子書籍、両方の良さを活かした出版を目指し、できるだけ多くの人に読書の楽しさを届けられるよう、尽力していきたいと考えています。
電子書籍の可能性を探る
電子書籍では紙の書籍では届けられなかった読者に、本を届けられる可能性があります。
また、電子書籍ならではの表現力を活かすことで、紙の書籍とは異なる読書体験を提供できる可能性もあります。
私たち逆旅出版は、そうした電子書籍の可能性を探りながら、紙の書籍と電子書籍、両方の良さを活かした出版を目指しています。